2019年09月04日

クマタカカメラ カメラの功罪


ここのところ天気が不安定ですね。
夏の終わりは不順なことが多いので仕方ないのでしょうが、
現地調査の予定が飛んでしまったり迷惑しておりまして、
天気に文句を言っても仕方ありませんが、
そろそろ安定してもらいたいものです。

ところで、人工巣で繁殖したクマタカの幼鳥ですが、
巣に飛来することもすっかり少なくなりまして、
8月23日から9月2日の11日間は巣に現れませんでした。
その前は数日あけることはなく、
こうなると、元気かどうか心配になるのですが、
昨日、久しぶりに元気な姿を見せてくれました。

IMAG9781.jpg

この個体は7月上旬に巣立っており、そろそろ営巣林から
出て、飛ぶようになっているはずなので、
1回、巣外にいるところを見てやろうと観察に行った
のですが、タイミングが悪かったのか、
姿を見ることができませんでした。

一方で、この人工巣と十数キロしか離れていない
別のつがいの巣では、まだ巣立っていないヒナが
存在しています。
クマタカの巣立ちの時期は7月上旬から8月中旬と
いわれていて、9月まで巣内にヒナがいるという記録は
見たことがありません。
ここのヒナはまだ巣立ってはいないものの、
現在は元気な様子です。
さすがにそろそろ巣立ちそうですが、人工巣から
巣立った幼鳥からは2か月以上巣立ちが遅れます。

IMAG5600.jpg

9月4日の夕方の巣内雛。まだ巣立たない。

この違いは何なんでしょう。
この繁殖の遅れた巣にも御覧のとおりカメラを
つけていて、もともと産卵が遅かったのに加えて、
エサの供給が十分ではなかった、
といった状況がわかっています。

ところが、遠方からの観察ではこうした状況がわかりません。
5月上旬と7月にそれぞれ1回、定点観察を行っていますが、
5月上旬には営巣木に餌運びがあり、普通、その行動からは
すでにヒナがふ化していて育雛期に入っていると推測します。
ところが実際にはまだ抱卵していました。
7月にも餌運びがあり、その時には遠方からの観察でも
巣が見え、ヒナが元気よく餌を食べる様子も見えたそうです。
ところがその餌運びはたまたまで、実際には餌が不足
しており、ヒナは栄養失調気味だったようです。

これがダム等の工事現場に隣接するつがいの巣で、
遠方から定点観察のみを行っていたとすれば、
「5月上旬にはヒナがふ化しており、7月には巣立ち直前の
ヒナが見られるなど繁殖状況は順調であった」 
とか、「途中まで繁殖はうまくいっていたが、
9月になってもヒナが巣立たない、繁殖失敗だろう、
工事の影響の可能性がある」
などと間違った判断をしてしまいそうです。

このように、巣に向けてカメラを設置すれば、
しかもそれが画像送信型であれば、
カメラを設置した巣で繁殖する限りにおいては、
繁殖の進行状況がわかり、繁殖失敗や進行状況の遅れの原因の
特定につながるデータが得られるかもしれません。
とにかく、定点観察などの人による観察では得られない
多くのデータが得られます。

私は、こうした効果からアセスや工事中のモニタリング
において、猛禽類の巣にできる限り巣内カメラを設置すべき、
と考えています。
やはり、よほど腕のいい調査員が、いくら頑張って調査
したとしても、遠方からの観察では繁殖の成否自体も
わからない場合があり、繁殖の失敗原因などは
ほとんどわからないか、いい加減な推測になってしまう
ことが多いようです。
これでは何のために調査しているかわかりません。
中途半端な結果となる調査であればお金の無駄で、
やらないほうがまし、とも言えます。
あるいは、中途半端な結果では、発注者から無責任と
言われかねません。
私としてはできる限り正確な結果を求めるためにも
巣にカメラを設置することを提案しています。

とはいえ、カメラを設置しても、その巣が猛禽類に
使われなければ、そのカメラ自体が無駄となって
しまいます。この場合は余計なお金を使わせる
ことになるので、こうした提案は難しいところです。

加えて、かなり以前から巣に近接するカメラを設置
することについては、猛禽類の繁殖に影響を
及ぼしかねない行為として、よく非難されます。
曰く、アセスや工事中モニタリングにおいては、
猛禽類への影響を低減するために調査をしているのに、
調査によって影響を与えることは本末転倒、
といった意見です。

ごもっともですが、環境調査において、個体を捕まえない、
結果を証明する映像もない、という状態で調査が
成り立つのは猛禽類ぐらいなんですよね。
これはちょっと猛禽類マニア以外には理解を得ることが
難しい状態なんですよね。

また、カメラが猛禽類の繁殖に影響を与える、という意見も
可能性、あるいは想像の産物であって、
証明されたことはないように思います。

実際に巣に向けてカメラを設置すると、カメラを見ている
猛禽類の画像がよく撮影されます。
ただ、見ている、というのは、たまたまとか、
興味を持っているという可能性もあって、
警戒している、ということとは隔たりがあります。
さらには、繁殖に影響する、となると、
かなりの飛躍となってしまいます。

とは言いながら、巣に向けて今回のようなカメラを設置すると、
警戒される場合がある、と私も思います。
次の動画をご覧ください。



一昨年にクマタカの巣に向けて設置したカメラの映像です。
まだ造巣期の初期の段階で、巣材を搬入するのもまだ数回目、
という時期でした。この個体は雌ですが、
かなりカメラを警戒しているように見えます。
この映像を最後にこの年はこの巣にクマタカが飛来しなくなり、
結局のところ別の巣で営巣しました。
それでもカメラを嫌がって営巣場所を移動したかどうか
明確ではありませんが、かなりその疑いが濃い状況となっています。
その後、このつがいは、営巣地移動後もまだ造巣に十分な期間が
残されており、ほかにも営巣できる環境があって、
別の巣で抱卵、育雛まで行うのですが、
育雛途中に繁殖活動を中断してしまいます。
中断の原因は不明ですが、営巣地を移動させたがために、
繁殖に遅れが何らかの無理につながったか、新たな営巣地が
不利な条件となっていた、というようなことも
考えられなくはありません。
もしそうであれば、それだけが原因でないにしても、
カメラの設置がクマタカの繁殖に影響を及ぼした、
ということになってしまいます。

なお、このつがいは、昨年、営巣地移動後にカメラを
撤去しました。一方で、新たな営巣地では9月の台風に
よるものと思いますが、落巣してしまっています。
今年はというと、元の巣に戻って営巣し、
ヒナも巣立っています。
カメラを撤去したから戻ってきたのか、移動した巣が
落ちたからか、それとも気まぐれか、何とも言えません。

上記は巣に対して斜め上にカメラを設置しており、
クマタカからすると、カメラが目につきやすい位置に
あったとも考えられますが、カメラを巣の真上に設置すれば
クマタカから目立たないので影響は少なかろう、
というふうにも思えます。

IMAG0797.jpg

これは真上で、巣から2m近くカメラを離した場合の画像です。
ちょうど雌が巣に飛来しています。

IMAG0801.jpg

次の画像では巣のすぐ下の枝にメスが移動しており、
カメラを気にしているような印象もあります。

IMAG0813.jpg

さらに次の画像ではカメラのアングルが変わって
しまっています。飛び立ったときに偶然カメラに
当たってしまったということも考えられますが、
その後撮影した動画では、クマタカによってグラグラと
カメラがゆすられている映像もあります。
巣に向けられたカメラを嫌がって、メスがカメラを
攻撃した疑いが濃厚です。

幸い、ここのつがいの場合には親鳥がこの巣で繁殖活動を
継続し、雛も巣立ちました。さらには、ヒナが大きくなり、
巣立ち間際に枝移りするようになって、今度は偶然にも
ヒナがカメラに何度も当たって、
うまく元に近い角度に復元してくれました。

IMAG3283.jpg

すでにヒナが巣立った巣に親鳥がヘビを搬入したところ。

証明にならないといいながら、やはり、こうした映像からは、
クマタカ等の猛禽類に対し、巣に向けてカメラを設置すれば、
クマタカから警戒されかねず、繁殖に影響を与えてしまう
可能性が少なからず存在する、というように思います。

私個人としては、前述のように積極的に設置すべき、
と考えておりますが、猛禽類の巣に向けてカメラを設置する、
という行為は、一長一短、というか、功罪併せ持つ、
ということは間違いないようです。

といっても、功罪ともにやってみなければその程度は
分かりませんし、効果をより高める方法も
影響を低減する方法もつかめません。
このため、今後も私はこうしたカメラを設置し続ける
つもりですが、できる限り、本ブログなどでその方法や
結果はお知らせしようと思います。

長々とくそ真面目に書きましたが、
要するに、いろいろ考えながらやってます。




posted by Kankyosekkei Co., Ltd. at 23:41| 生物調査 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする